前回は、アメール王の後継者になれなかったスージャマルが、ムガル皇帝ジャラルディンの義理の弟シャリフディンに助力を求めるところで終わった。今回は、その続き。
スージャマルがムガルのシャリフディンに助力を求め、アメール王座を奪おうとしているとの知らせは、アメール王バールマルのもとに届いた。
ムガルの軍が攻め寄せれば、アメールは滅亡する。
そう考えたバールマルは、先にムガルと同盟を結び、その傘下に入ることを決断する。
しかし、ラジプターナ諸王はこぞって反対。「あなたとの付き合いもこれまでだ」と、バールマルは裏切り者扱いされてしまう。
バールマルは、ジャラルディンに面会を求めて、サンガネールに出向く。
ジャラルディンは、象の闘技場にいるという。象の闘技場でバールマルは尋ねる。
「陛下はどちらに?」
「そこです」
象と戦っているのが、何と、ジャラルディンだったのだ。
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皇帝のテントでジャラルディンに面会したバールマルは、アメールをムガルの傘下に加えてくれるように依頼する。ジャラルディンが快諾すると、バールマルは「もう 1 つお考えいただきたいことが...」と切り出す。
「我が娘、ジョーダ姫を貰っていただきたい」
しばらく返事をしないジャラルディン。
そして、「少し考えさせていただきたい。
モイーヌッディーン チシュティー廟に行った後に返事をさせていただく」
モイーヌッディーン チシュティー廟とは、アジメールにあるイスラムの聖地。アジメールにはイスラムの聖者モイーヌッディーン チシュティーの墓がある。この墓の前で願いごとをすれば、願いが叶うと言われている。宗教に関係なく霊験があるとされており、現在もイスラム教徒だけでなく、ヒンズー教徒も含め、多くの人々が訪れるとのことだ。
モイーヌッディーン チシュティーの詳細(英語)
ジャラルディンは、モイーヌッディーン チシュティー廟で、ムガルによるインド統一を願う。この祈りの場面で、「お助けください、クワジャ」という台詞が出てくる。クワジャとは何だ?
あれこれ調べて、ようやく判明! 聖者モイーヌッディーン チシュティーのフルネームが、クワジャ モイーヌッディーン チシュティー。 分かってみれば何ということもないが、知らないと、こんなところでも時間を使ってしまう。
祈りを捧げた後、外に出たジャラルディンにハーン ババとシャリフディンが加わり、3 人の会話となる。この会話のシーンは、ジャラルディンがジョーダとの政略結婚を受け入れることを決断する重要な場面だが、英語字幕で鑑賞したときは会話の内容がさっぱり理解できなかった。
「バイラム ハーンは、何年もの間、私の名前を使ってムガルの実権を握ってきた。
その間、私は不思議だった。
我々は、なぜ全インドを支配できないのか。
どうすれば良いのか、その方法が分からなかった。
結婚による新しい結び付き。
これはアラーの意思だ。
アラーよ、進むべき道をお示しくださり感謝いたします」
一方アメールでは、バールマルが
「アメールのために、お前の幸せを犠牲にしてくれ」とジョーダを説得。
異教徒と結婚させられるジョーダに、母親のパドマバティは小瓶を手渡して言う。
「毒の入った、このビンを持ってお行き。
名誉をなくすくらいなら、毒を飲みなさい」
こうして、ジョーダは結婚のために、ジャラルディンの露営地に赴く。
露営地で、ジョーダは「私にも条件がある」と言い出す。
この映画の 1 つの山場だ。
ジョーダは、ジャラルディンに向かって言う。
「2 つの条件があります。
それらを受け入れてくださったときにのみ、結婚いたします」
「条件とは?」
「最初の条件です。私の宗教と信仰を尊重し、私の伝統と習慣に従うことを認め、いかなる状況でも改宗を迫らないでください」
「それから?」
「2 番目の条件です。神の像を持ち込むことを許し、その神のために、私の部屋の中に寺院を作ることを認めてください」
黙ってテントを出るジャラルディン。
イスラム教にとって、偶像崇拝はタブーだ。
しかし、ジャラルディンは、テントの前で皆に向かって宣言する。
「アメール王女ジョーダとの結婚を受け入れる!
アラーの思し召しにより、ジョーダの要求は叶えられよう」
こうして、ジャラルディンとジョーダの結婚式が執り行われ、スーフィーの一団が、クワジャ ガリーブ ナワーズを称える歌「Khwaja Mere Khawaja」(聖クワジャ)を歌う。ガリーブ ナワーズ(貧者の慈愛者)とは、モイーヌッディーン チシュティーの別名だ。
スーフィーとは、イスラム神秘主義の修行者とされている。
ウィキペディアによると、インドにおけるスーフィーは、「宗教の違いに関わらず神への愛に依り魂は救われるという思想を展開した」 とのことだ。インドにイスラム教が広がったのは、剣かコーランかといった荒っぽい方法ではなく、スーフィーたちの地道な慈善活動の賜物という。
映画では、スーフィーの一団の中で、ジャラルディンが神の啓示を受けたかのような演出がなされている。イスラムの多数派ではなく、スーフィーの聖者クワジャ ガリーブ ナワーズを登場させたことによって、この映画はイスラム教徒とヒンズー教徒の両方の観客に受け入れられるものとなっている。
注: 実際のムガル帝国は、スンニ派。結婚式でスーフィーが歌うなど、史実として有り得ないと思われる。しかし、ジャラルディンがインドのヒンズー教徒を弾圧したとか、改宗を迫ったという事実はなく、ジョーダがヒンズー教であり続けたのは史実かもしれない。ジョーダがヒンズー教であり続けることは、ムガルがインドを統治する上でも、好都合だったのではないだろうか。
英語字幕で鑑賞したとき、「Khwaja Mere Khawaja」を変わった歌くらいにしか思わなかった。しかし、クワジャ ガリーブ ナワーズの概要や、インドに対するスーフィーの影響を知ったうえで聞き直すと、本当に良い曲だ。当初は、結婚式なのに気の利いた歌もダンスもなしか、と思った。しかし、「Khwaja Mere Khawaja」を繰り返し聞くうちに、宗教の異なるジャラルディンとジョーダの結婚式には、この曲がぴったりだと思うようになった。味わい深い名曲だ。
ここまでの上映時間、約 1 時間。物語は、まだ始まったばかりだ。